炎の記憶

                                  濱本義人
   焼夷弾を浴び、焼け焦げ、ひび割れした亀山神社の狛犬




*  緋の袴まとえる様に亀山の 社殿は炎に包まれて立つ

 (ひのはかま まとえるさまに かめやまの しゃでんはほのおに つつまれてたつ)


*  呉空襲 防空壕に人満ちて 山路を逃れ命長らう

 (くれくうしゅう ぼうくうごうに ひとみちて やまじをのがれ いのちながらう)


*  焼け焦げし丸太と紛う遺体在リ 焔に巻かれ逃げ遅れしか

 (やけこげし まるたとまがう いたいあり ほのおにまかれ にげおくれしか)


  鮮紅の炎は街を舐め尽し 無辜の人命奪い去リゆく

 (せんこうの ほのおはまちを なめつくし むこのじんめい うばいさりゆく)


*  念仏を誦しつつ薦に巻く屍 炎暑に面差し変リ初めたリ

 (ねんぶつを じゅしつつこもに まくかばね えんしょにおもざし かわりそめたり)


*  薪を積み骸数多を茶毘に付す 記憶は鼻腔に染みこみ残る

 (まきをつみ むくろあまたを だびにふす きおくはびこうに しみこみのこる)


*  紙袋ひとつに変リ果てし姉 母の鳴咽を止める術なく

 (かみぶくろ ひとつにかわり はてしあね ははのおえつを とめるすべなく)


*  焼夷弾が蒸し焼きにせし三百人 魂魄惑わん念仏坂に

 (しょういだんが むしやきにせし さんびびゃくにん こんぱくまどわん ねんぶつざかに)


*  梵鐘も火鉢も花器も召し出され 矢玉と化して四方に飛び散る

 (ぼんしょうも ひばちもかきも めしだされ やだまとかして よもにとびちる)


*  童顔の勤労学徒ぞ十五才 海軍工廠空爆に散る

 (どうがんの きんろうがくとぞ じゅうごさい かいぐんこうしょう くうばくにちる)




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